自己決定権の侵害
子宮全摘術の実施に関する説明不足
大阪地裁平成15年8月29日判決の事例を参考
80万円の損害賠償を命じた事例
【ケース】
手術に至る経緯
私は,8月30日,外陰部のかゆみと不正出血を訴えて,外来受診し,子宮頸部細胞診を受けました。
私は,9月6日,再度病院で受診したところ,細胞診検査の検査報告書に「炎症性変化による影響も考えられますが,核肥大を示す扁平上皮細胞が見られ,軽度異形成上皮を疑います。消炎後の再検をお願いします。」との所見が記されていたことから,細胞診の結果が?aであること,異形成上皮であることの説明を受け,9月19日にがん検診の精密検査を受けるよう指示されました。
私は,9月14日にも受診し,膣内洗浄と膣錠(クロマイ錠)を挿入してもらいました。
私は,9月26日にも受診したところ,医師から,19日に実施した細胞診検査の検査報告書に「軽度核肥大を示す扁平上皮細胞を少数認めますが,今回は異形成上皮と断定するほどの細胞は認められません。」との所見が記されていたことから,検査結果は大丈夫であるとの説明を受け,3か月後の受診を指示されました。
私は,10月10日,頻尿・尿漏れを訴えて外来受診した際,9月19日の細胞診の結果について質問したところ,?aは軽い異形成のレベルであり,しかも,再検査ではクラス?で異常ではないので,今すぐ手術をする必要はなく,3か月後に再検査したらどうかという説明を受けました。
そこで,私は,心配しながら検査を受けに来るのは非常に億劫である,子宮を切除してしまえば心配ないのではないかと考え,手術を希望しました。
これに対し,医師は,仮に手術をするにしても,子宮頚部を円錐状にレーザーで切除するレーザー円錐切除術という方法もあることを説明してくれましたが,それも検査を定期的にする必要があることから,私は,子宮全摘術を希望しました。
手術の実施及びその後に判明した事実
私は,11月8日,子宮全摘術及び右卵巣摘出術を受けました。
ところが,術後の病理組織検査では,子宮腺筋症がみられ,右側卵巣の出血性黄体がみられるものの,悪性所見はなく,異形成上皮はみられないとの病理組織学的診断がなされました。
【質問】
私は,医師の説明により,てっきり子宮癌になり,子宮全摘術を受ければ助かるものと思い込んでいました。
私としては,医師の説明に問題があると考えているのですが,医師に責任はないのですか?
【説明】
子宮頚がんの腫瘍マーカー
子宮頚がんは,組織型から,扁平上皮がんと腺がんに大別され,前者が多数を占めるとされています。
扁平上皮がんについては,特異性の高いSCCが最もよく用いられるため,子宮頚がんについてもこれが用いられますが,臨床進行期が進むに従い陽性率が上昇するとされ,?期では20%程度と高くはありません。
SCC値の正常上限は1.5?2.0ng/mlとされていますが,子宮傍結合織浸潤及び膣壁浸潤の症例数を,SCC値が2.5ng/ml未満の場合と同値が2.5ng/ml以上の場合とで比較すると,後者が前者の3倍程度多くなっているとの報告があります。
子宮頚部細胞診
東京都がん検診センターにおける子宮頚部細胞診の?a,?bの取り扱いについての研究報告では,細胞診所見では?,?とされ異常なしとされていたケースの中にも,併用されたコルポスコープ診により,?については軽度異形成及び中等度異形成と診断されたケースがあり,?については,軽度異形成,中等度異形成及び高度異形成と診断されたケースがあったこと,?b(上記センターにおける独自の分類)及び?aについては,いずれも,軽度異形成,中等度異形成及び高度異形成と診断されたケースがあったことが報告されています。
異形成の転帰については,軽度異形成では,進展が2.5%,存続が26.3%,寛解が71.2%,また,中等度異形成では,上記の順に,20.5%,40.2%,39.3%,さらに,高度異形成では,同順に,16.9%,35.6%,47.5%となっています。
軽度異形成の症例については,3か月ごとの細胞診とコルポスコープ診で経過観察を行うこととし,中等度異形成及び高度異形成の症例については,3か月以内の経過観察もしくは円錐切除術,レーザー治療を含む治療紹介を行うこととしているとされています。
異型上皮の症例に対する子宮全摘術
平成8年の日本産科婦人科学会岡山地方部会で発表された川崎医科大学産婦人科教室の報告によれば,子宮頚部異型上皮と診断された4症例について,平成8年5月から同年10月までの間に同産婦人科教室において,腹腔鏡下膣式単純子宮全摘術が施行されたことが報告されており,また,他の医療機関においても,異型上皮の症例に腹腔鏡下膣式子宮全摘術を施行したとの報告がなされています。
また,上記報告書の子宮頚管ポリープに原発したと考えられる高度異形成上皮,上皮内がん及び微小浸潤がんの各症例に関する報告によれば,初診時の細胞診が?であったため,約2週間後に単純性子宮全摘術及び右卵巣
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