医師の注意義務の内容
診療行為は、診察、検査、診断、治療という経過を経ます。そして、医師は、この各過程において注意義務を負うことになります。
- 問診義務:医師は、患者から症状や病歴などを聞き出すことにより、診断の際の一つの判断要素としますので、医師による診察が十分に尽くされていないと誤診、治療ミスを招くことになります。ですから、医師は、適切に問診すべき法的義務を負っているのです。
- 検査における注意義務:医師は、患者の症状にしたがって適切な検査を行うべき義務を負っています。医師がこのような義務を尽くしていない場合、誤診に至ることになります。また、医師は、造影剤検査や内視鏡検査などの侵襲性の高い検査を安全に実施すべき義務を負っています。医師が侵襲性の高い検査を実施するにあたって、患者に危害を加えた場合、その検査行為自体が不法行為、あるいは診療契約の義務違反ということになります。
- 誤診:問診、検査が十分に行われてない、あるいは問診、検査は十分に行われたが医師が症状を見落としていたという場合があります。誤診は、医師の典型的な注意義務違反の形態です。
- 治療における注意義務:典型的なものに、手術などの外科的処置にともなう注意義務があります。具体的には、手術の適応判断、術中の手技、術後管理、麻酔投与を適切に行う義務です。
また、注射・投薬にともなう注意義務があります。具体的には、注射・点滴の際に不必要な危害を加えない義務、注射・点滴後に適切な処置を行う義務、注射による感染を防止する義務、薬剤の適応判断、薬剤の選択、薬剤投与量、薬剤投与の方法を適切に行う義務などがあります。
さらに、放射線治療にともなう注意義務や患者への療養指導にともなう注意義務もあります。
診療行為以外の場面でも医師が注意義務を負うことがあります。患者の症状に応じてベッドから転落したり、廊下やトイレで転倒することを防止する義務があります。
予防接種の際の問診義務や注射・点滴の際に不必要な危害を加えない義務、注射・点滴後に適切な処置を行う義務があります。
健康診断の際の問診義務や各検査内容に応じて治療の際に負うのと同様の義務があります。さらに、治療行為とはいえない美容整形における、説明義務や、適応判断、手技、術後の指導などを適切に実施する義務があります。