医療慣行
臨床医療の現場で平均的な医師によって広く行われている医療慣行が医師の注意義務の判断にどのような影響を与えるか問題となります。
つまり、医師としては、医療慣行に従って医療行為を行った場合には、結果に対して責任を負うことがないのかという問題です。
最高裁昭和36年2月16日「東大輸血梅毒事件」判決では、「注意義務の存否は、もともと法的判断によって決定されるべき事項であって、仮に所論のような慣行が行われていたとしても、それは唯だ過失の軽重及びその度合いを判定するについて参酌さるべき事項であるにとどまり、そのことの故に直ちに注意義務が否定されるべきいわれはない」と判示しています。
また、最高裁平成8年1月23日「ペルカミンS投与事件」判決では、上記の最高裁判決を受けて、「医療水準は、医師の注意義務の基準となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない」と判示されています。
以上の最高裁判決を見る限り、医師は平均的な医師が行っている医療慣行に従っているだけでは注意義務を尽くしたとはいえず、それぞれの医療機関に相応しいと考えられる医療水準に従った医療行為を行うことが法的に求められているのです。