専門外の診療科目についての注意義務
医師は、診療科目ごとに医師資格を与えられているのではなく、診療科目についても自由標榜制をとっています。
また、医師は、正当な事由がない限り患者の診療を拒むことができません。ですから、医師は、標榜する診療科目に属さない患者を診療しなければならない可能性があります。
そこで、医師が診療科目に標榜していない疾患をもつ患者を診療しなければならない場合の注意義務がどのような内容のものとなるのか問題となるのです。
最高裁平成7年6月9日判決では、「医師等が右(医療水準と認められる治療方法などに対する)知見を有しなかったために、右医療機関が右治療方法を実施せず、又は実施可能な他の医療機関に転医をさせるなど適切な措置を採らなかった」場合に診療契約に基づく債務不履行責任が認められるとされています。
また、大阪地判平成12年1月27日「糖尿病検査不履行事件」判決では、専門外の医師が当初行った臨床診断とは異なる臨床症状を呈してきたような場合には、単に自らの診療科目に属する患肢の経過観察を行うのではなく、専門外疾患の可能性も疑い、具体的臨床症状に即した適切な治療を行うべき義務があるというべきであると判示され、福岡地判平成12年2月24日「薬剤アレルギー皮膚症事件」判決では、医師の皮膚科専門医への併診(相談)すべき注意義務違反の行為と患者の後遺症との間には相当因果関係があると判断され、併診義務違反が認められています。