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インフォームド・コンセント

インフォームド・コンセントは、世界的には、1981年の「患者の権利に関するリスボン宣言」において「患者は十分な説明を受けた後に治療を受け入れるか、または拒否する権利を有する。」と明記されたことにより患者の自己決定権として理解され、日本においても認められるようになりました。
では、医師などが治療に先立って行うべき説明の範囲や、説明義務違反があった場合の損害についてはどのように考えられているのでしょうか。

東京地判平成4年8月31日「AVM術説明義務事件」判決では、「治療行為にあたる医師は、緊急を要し時間的余裕がない等の格別の事情がない限り、患者において当該治療行為を受けるかどうかを判断決定する前提として、患者の現症状とその原因、当該治療行為を採用する理由、治療行為の内容、それによる危険性の程度、それを行った場合の改善の見込み、程度、当該治療行為をしない場合の予後等についてできるだけ具体的に説明すべき義務がある。」とされ、死亡した患者に摘出手術を受けるかあるいは手術を受けずに保存的治療により経過を見るかの選択の余地が奪われた精神的苦痛に対し600万円の損害賠償を認めました。
新潟地判平成6年2月10日「AVM術説明義務事件」判決では、「医師は、緊急を要し時間的余裕がないなどの特別の事情がない限り、患者において当該治療行為を受けるかどうかを判断、決定する前提として、患者の現症状とその原因、当該治療行為を採用する理由、治療行為の具体的内容、治療行為に伴う危険性の程度、治療を行った場合の改善の見込み、程度、当該治療を受けなかった場合の予後について、当時の医療水準に基づいて、できるかぎり具体的に説明する義務がある。
なぜなら、医療行為は不可避的に患者の身体に対する侵襲を伴うから、これを適法とするには患者の承諾が必要になるからである。」、「担当医らは、業務上、患者である原告の診察・治療に際し、その診療当時の臨床医学の実践における医療水準に従い、適切な治療を行い、その生命・身体を保護すべき注意義務があるところ、前記のとおり本件手術の有効性や必要性については検討の余地が大きいにもかかわらず、担当医らは、説明義務を尽くさず、原告の適法な同意を得ることなく、本件手術を実施したものであるから、本件手術により原告に生じたすべての損害を賠償しなければならない。」と判示し、左同側性半盲等の後遺症を負った患者に対して85,544,939円の損害賠償を認めました。

仙台高判平成6年12月15日「椎間板ヘルニア術説明義務違反事件」判決では、「手術は、患者の肉体に・・・損傷を加える行為であるから、その承諾がなければ違法性を帯びることはいうまでもない。
例えば、医師側が手術の目的、方法又は内容を説明しないため、患者がこれらを了解しないまま抽象的、白紙委任的にした承諾は、具体的な手術に対する関係でなされた承諾とはいえず、これに基づく手術は原則として有効な承諾を経ないものというべきてある。
これに対して、前記手術内容等の説明がなされ、患者がこれを理解したうえで手術を承諾した場合は、手術の危険性、手術による後遺障害発生の危険性、手術に代わる治療手段の有無等、承諾をするか否かを決めるにつき考慮の対象となるその余の説明ないし情報の提供がなかったとしても、右承諾が当然に無効となるものではなく、その意味で有効な承諾というを妨げず、これらの説明があったとしたら手術を承諾しなかったてあろうと考えられる特段の事情があるときに限って無効となると解するのが相当である。」判示し、手術前の医師の説明が手術の危険性に触れないものであったため、患者の選択の機会を侵害したとして950万円の損害賠償を認めました。

また、東京地裁平成8年6月21日「AVM全摘術説明義務違反事件」判決においては、「診療契約上、医師は、患者に処し、当該患者の病状や今後の治療方針について当該患者(その者に判断能力がなければそれを補完すべき者)が十分理解でき、かつそのような治療を受けるかどうかを決定することができるだけの情報を提供する義務を負っているというべきであり、このことは、当該患者の生命や今後の生活に大きな影響を及ぼすような重大な選択を迫る場合には一層そうであるといわなければならない。・・・医師らの不十分な説明のために、手術の危険性や予後の状態を十分把握し、自らの権利と責任において、自己の疾患についての治療を、ひいては自らの人生そのものを真しに決定する機会が奪われたことになるのであって、これによって健二の被った精神的損害は重大である。
そして、この精神的損害は、被告の右説明義務違反と相当因果関係があるというべきである。」として、1600万円の損害賠償を認めました。

以上より、医師に治療方針や危険性についての説明義務があることについては争いなく、患者が被った損害と説明義務違反との間に因果関係が認められる場合には、実際に被った損害全額の賠償が認められ、因果関係が認められない場合には患者の治療選択の機会が奪われたことによる慰謝料の支払いが認められるという構造になっていると言えます。
そして、患者の治療選択の機会が奪われたことによる慰謝料の金額については、患者の後遺症の程度が大きいほど増額する傾向にあるといえます。

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