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診療契約上の責任

診療契約の内容は、「患者に対し病気を診察治療することを約しうるにとどまりこれを治癒させることまでは約しえないのが通常の事例であり、右契約における医師の債務は特約のない限り前者の行為をすることにあると解される」(東京地裁昭和46年4月14日判決)とされており、必ずしも治癒させることが契約の内容になっていません。

診療契約において医師が行うべき法的義務は、医師が最善を尽くして本来行うべき治療を適切に行うというものであり、逆にいえば、医師が注意を尽くせば危害の発生を予測することができ、その結果を回避することができたにもかかわらず、これを行わなかったという場合が診療契約上の義務を履行していない場合といえるのです。

ですから、医師や病院設置者の診療契約上の義務違反というのは、先に説明した不法行為に基づく損害賠償責任を追及する場合と重なりあってくるのです。
つまり、不法行為に基づく損害賠償が認められるときには診療契約上の義務違反が認められ、診療契約上の義務違反が認められるときには不法行為に基づく損害賠償が認められる関係にたつといえるのです。

ただ、神戸地裁平成9年8月27日「胎児死亡事件」判決では、「診療契約に基づいて医師や病院が負担する債務は、技術上適正に注意深い診療を実施すべき債務であり、その法律的性質はいわゆる手段債務であるが、診療の高度の専門性・特殊性に照らし、右医師の債務は、患者によって希望された診療目的の達成を目標として、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準を基準とする危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務をもって診療を行うべき債務であると解される。
そして、そのような医師の債務の特殊・専門性に照らし、右のような最善の注意義務を尽くした診療行為が何かについて患者側が知得することは一般的には極めて困難なことであり、他方、診療債務の内容である診療の目標には意外な結果を将来しないようにする意味が含まれており、医師の診療行為から意外な結果が発生した場合には、前記の最善の注意義務が尽くされていない蓋然性があるから、患者などの債権者側は医師の診療行為から意外な結果が発生したことの主張・証明責任を負うにとどまり(もっとも、右については、原因行為をできるだけ明らかにする必要はある。)、医師などの債務者側は、前記の最善の注意義務を尽くしたことを主張・証明しない限り、診療契約の債務不履行(不完全履行)の責任を免れないものと解するのが相当である。」と判示されており、診療契約に基づく債務不履行責任の主張立証責任を軽減されています。

しかし、この判決の存在により、全ての医療過誤訴訟において、不法行為に基づく責任を追及するより、診療契約の債務不履行責任を主張した場合の方が、主張・立証責任が軽減されるとまではいえないと考えています。

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